泡坂妻夫のサスペンス(1980年1月 講談社)を原作にした2時間ドラマ。狙われる主人公松原伊津子は浅野ゆう子さん。ミステリアスな存在で北岡貴緒役で多岐川裕美さんが共演してる。西岡徳馬さんが演じる北岡早馬は敵か味方か、信じて良いパートナーなのか、気が置けない。
2008年制作のテレビ朝日、土曜ワイド劇場。「美貌の不倫妻,密室の死の謎…結婚パーティーで家政婦が毒殺された!華麗な一族の中に真犯人がいる」がサブタイトル。脚本は篠崎好、監督は池広一夫。新進作曲家・三栗達樹に布川敏和。この人物が消息不明になったことから警察の捜査が始まる。北岡の屋敷に居候している北岡の友人の売れない小説家・大和田山遊(西田健)が疑惑を吹き込むような言動をする。足が不自由な人物であるのも、怪しさを醸す。こうした様子を影で除いてそうな家政婦の荒垣佐起枝(冨士眞奈美)が一時間を過ぎたところで、毒殺されて真相のキーパーソンを失い、ドラマは振り出しに。昨日観た、「プライベート・バンカー」だとこれを維持したまま展開するのだろうが、そこが仕掛けだった。江戸川乱歩が「読者諸君はわかるだろうか?」と問いかける如く、観ているものを気持ちよくはぐらかしてくれた。後半、回想シーンが増えて多岐川裕美さんのシーンが増える。貴緒からプレゼントされたレモン色のスーツを、浅野ゆう子さんが着てみるシーン。鏡台に立つ姿を、仰ぐアングルのカメラワークなので、ショート丈の間からオヘソが覗くのはサービスショットか。西岡徳馬さんが赤いガウンを着て酒のグラスを手に、浅野ゆう子さんと対話するシーンではレース地の寝室着で、肌が透けて見えるし、夫婦の営みのあとだとわかる。朱色の七分袖の服で胸元が開いている多岐川裕美さんの衣装など。

本格推理小説
泡坂妻夫は、本格推理小説・時代小説(捕物帳)・現代小説(人情物・紋章上絵師)等を書き分けて、それぞれの分野で高い評価を受けていましたが、2009年はじめに死去しました。昭和の作家である。浅野ゆう子さん、西岡徳馬さん、多岐川裕美さんの配役を、島田陽子、山口崇、中島ゆたかでもドラマ化されていて、昼メロ全盛期の昭和トーンを継承していて、落ち着いて芝居世界に引き込まれてしまう。機会があれば繰り返し観てほしい。
劇的なショパンの名曲を演奏しているシーンで始まるドラマ。浅野ゆう子さんが演じる主人公・松原伊津子の職業はフリーの経済記者。現代小説もある泡坂妻夫の作品は、恋愛・ユーモア・サスペンス・その他あらゆるスタイルを併せ持っているので表面的にも楽しめる。泡坂妻夫は奇術書も著していて、奇術者としても有名。奇術と推理小説を対比したエッセイもあるくらいですから、仕掛けが伏線としてあったことを見逃していたことに告白シーンで気が付きます。サスペンスのスタイルでメロドラマとして楽しむのもいいですが、劇中、関係者に聴取する警部も探偵小説とは違って松本清張作品の刑事と同じく、視聴者にヒントを与えてくれる役回り。しっかり本格推理小説です。
池広一夫の演出はカット割り、カメラワークに作為的な作り方はないが、クライマックスの謎解き、長いモノローグではマーラー風の音楽が砂の器を連想させる音楽で、長い旋律で緊張感を継続させている。すべてを視聴者が知ったラスト、「伊津子」を逃げるように促し、早馬は警察に囚われていくことに決意するが、伊津子も心に決意する。愛する夫の写真を収めた胸のロケットには、白い錠剤も隠し持っていた。彼女は夫の後ろ姿を見送りながら、薬を飲む。二階から階段を踊り場まで転げ落ちる、浅野ゆう子さん。物音に振り返り、駆け寄り、抱えあげる西岡徳馬さんに「ありがとう」とか細い声で言いかけて事切れる。ヴェルディの悲劇「マクベス」の幕切れに似た和音で幕となる。
黒木瞳さんをキャスティングしてみたくもあったが、エロティックな要素を多岐川裕美さんが力演。本格推理小説トーンを浅野ゆう子さんが緊張感の牽引者として演じきっていて、挑戦を感じた。「マクベス」を観ているようなラストなど、女優飛躍の一作とも言えるだろう。
江戸川乱歩がシャーロック・ホームズを手本に日本の探偵小説時代が起こり、ミステリーブームになったものも、昭和のリアルを軸足にした松本清張、横溝正史の晩年作品が発表になる1970年台の中頃に、雑誌「幻影城」の新人賞・佳作でデビューした泡坂妻夫。従って、初期は本格推理小説が主体に活動していました。「乱れからくり」で日本推理作家協会賞受賞・「蔭桔梗」で直木賞受賞等多数の賞をうけています。「花嫁の叫び」は、4作目の長編です。
コメントを投稿するにはログインしてください。