ヴィンテージレコードの楽しみ
「当代一のブラームス弾き」といわれたジュリアス・カッチェンのモノラル時代のレアな録音。
傑
烈
秀
麗

Julius Katchen – BRAHMS: Sonata in f mior – GB DECCA LK4012

《フラット190g盤》
GB DECCA LK4012
ジュリアス・カッチェン ブラームス:ピアノソナタ3番
1949年10月ロンドン録音。
ジュリアス・カッチェン
わずか42歳で帰らぬ人となったカッチェンは、その短い生涯の間に、ブラームスのピアノ独奏曲とピアノ協奏曲のすべてを録音した。これはブラームスを愛好するものには大切な記念です。
1926年8月15日、アメリカのニュージャージー州ロング・ブランチに生まれ、1969年4月29日にパリで亡くなった名ピアニスト。 はじめ母に、ついでニューヨークでデヴィッド・サバートンに学び、11歳の時の1937年10月にフィラデルフィア管弦楽団とモーツァルトの協奏曲を弾いてデビューした。その後、ハヴァーフォード・カレッジで芸術全般について学んで、1945年に卒業。1948年にイスラエルに演奏旅行の後、パリに住み、主にヨーロッパで活躍したが、演奏家として最円熟期の42歳で惜しくも亡くなった。
カッチェンは若い頃、ストラヴィンスキーやバルトークなど現代音楽に鮮やかなテクニックの冴えをみせ、第2次世界大戦後に登場した最も注目すべき才能のひとりといわれたが、ヨーロッパに落ちついて活躍するようになってからは、わが国ではあまりレコードが発売されなかったためか、その実力ほどは知名度は高くないようだ。
しかし、彼が1960年頃から積極的にブラームスの作品にとりくみ、死の直前に完成したブラームスのピアノ曲全集のレコード(英デッカーロンドン)は、ヨーロッパでは現代のもっともすぐれたブラームス演奏と非常に高く評価され、各国のディスク大賞に選ばれた。このレコードは、その全集に収録されていたものである。
レパートリーは古典から現代曲まで、またスラヴものからドイツ、フランス、アメリカものまで幅広く、DECCAには40数枚のLP録音を残しました。数々の英DECCAのオーディオファイル・レコードで、ジュリアス・カッチェンは弾力的なリズム感と固い構成感で全体を見失わせない実に上手い設計で聴かせてくれる。冒頭から終わりまで息もつけぬ緊張感を味わえます。
1949年10月ロンドン録音。
Brahms Piano Works
カッチェンによるブラームスの演奏は高度な技巧と確かな様式感を軸とした充実した名演。
洗練されたカッチェンの美しきピアニズムは本盤でも遺憾なく発揮され、淡々とした美しさを奥深い透明感で貫いて描ききる素晴らしい名演。
驚異的な技巧と深い教養に裏打ちされた音楽的な表現が印象深いカッチェンの演奏は、抒情的な感情に溺れることなく理知的で、現代人の感覚にもストレートに訴えかけてきます。
●ブラームスのピアノ作品
ヨハネス・ブラームス (1833-97)は、フレデリック・ショパンやフランツ・リストほど有名ではないが、すぐれたピアニストでもあった。それだけに彼の作曲活動の中でピアノ曲が占める位置も、かなり重要だが、ピアノ曲の創作はほとんど青年期と晩年に集中している。そして青年期の作品がソナタと変奏曲という、主に古典派以来の伝統的な形式を用いた作品がほとんどなのに反し、晩年の作品が簡潔な形式による小曲集だけなのも大きな特徴であろう。
ブラームスのピアノ曲で最初の重要な作品は、3曲のソナタ (1853〜4年)で、そこにはいかにも青年らしい情熱と意欲があふれている 、その後、変奏曲に熱中し、「ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ」(1861年)、「パガニーニの主題による変奏曲」 (1863年)という対照的な傑作を作曲した。しかし、その後の15年間は、室内楽と「ハンガリー舞曲」や「ワルツ」に代表される連弾曲を発表しただけで、再びピアノ独奏曲を作曲したのは1879年の「8つの小品」作品76と翌年の「2つの狂詩曲」作品79であった。そして、この後、約10年のブランクがあり、1892年と93年には「7つの幻想曲」作品116、「3つの間奏曲」作品117、「6つの小品」作品118、「4つの小品」 作品119と矢つぎばやに作曲した。この「8つの小品」以後の小曲集は、青年期の作品とは対照的な内容の作品で、ピアノ音楽史上でもユニークな地位を占めている。
ブラームスは、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの後継者であるとは、しばしば指摘されるところだが、ピアノ曲においても同様で、ソナタにしろ変奏曲にしろ、ベートーヴェンが好んだ楽曲であったし、ブラームスの晩年の小曲集も明らかにベートーヴェンの晩年の「バガテル」に以た傾向の作品であり、それをより発展させた作品ということもできる。
●曲目について
ピアノ・ソナタ第3番へ短調、作品5
ブラームスのピアノ・ソナタは3曲あるが、いずれも1852年から53年にかけて作曲された。ブラームスの20歳前後の作品である。3曲中では第1番ハ長調作品1とこの第3番が有名だが、とくに第3番が代表作として演奏される機会ももっとも多い。作曲されたのは、第2、4楽章が1853年の春、残りの3楽章が秋に作曲されたと考えられておリ、楽譜は翌1854年にライプツィヒのバルトホルフ・ゼンフから出版され、イーダ・フォン・ホーエンタール伯爵夫人に献呈された。初演は第2、3楽章だけは、1854年10月23日にライプツィヒのゲヴァントハウスでクララ・シューマンによって行われたが、全曲は作曲して10年後の1863年1月6日にウィーンでブラームス自身が初演し、有名な批評家ハンスリックに高く評価された。
第1楽章 アレグロ・マエストーソ、へ短調、4分の3拍子、ソナタ形式。冒頭から第1主題が勢いよく登場する。きわめて音域の広い、 エネルギッシュな主題だが、後半はかなり抒情的な性格の音楽で、この第1主題の前半がくり返された後、変イ長調、変ニ長調、ヘ長調、 変ロ長調と転調される経過句をへて再び変イ長調にもどって第2主題が提示される。この第2主題は、性格的には第1主題の後半と共通する抒情的な性格の音楽だが、ひんぱんな転調と音階的な上昇によって緊張感をもたらし、表情も豊かである。コーデッタでテンポを早め、変ニ長調で呈示部を終り、展開部は異名同音の嬰ハ短調ではじまるがここでは第1主題だけが扱われる。再現部は第1主題の後半の伴奏音型が暗示されるだけにとどまり、再び第1主題が力強く奏された後にテンポをまし、大きく盛り上って終る。
第2楽章 アンダンテ・エスプレッシーヴォ、変イ長調、4分の2拍子、3部形式。第1ソナタと同様にブラームスは、この第2楽章に標題のようにシュテルナウ(オットー・インカーマン(Otto Inkermann、1823年-1862年)の筆名)の詩「若い恋」を記している。その詩は、「黄昏がせまり、月が輝やく。その時ふたりの心は、愛で結ばれ、たがいに寄りそって抱き合う」といった意味の、若い恋人たちの愛をうたったものだが、この詩にふさわしい非常にロマンティックな情感が豊かに漂う楽章である。中間部はポコ・ピウ・レント、変ニ長調、16分の4拍子になり、高潮する。コーダは、いちどクライマックスをきずいた後、アダージョの静かな平安な落ちつきをとりもどし、最後は力強く確信に満ちた感じで終る。
第3楽章 スケルツォ アレグロ・エネルジーコ、ヘ短調。冒頭の減7のアルペジオが効果的な不気味な感じさえするスケルツォで、第2楽章は非常に対照的な楽章。しかしトリオは、優美である。
第4楽章 アンダンテ・モルト、変ロ短調、4分の2拍子。「間奏曲」 と題され、さらに「回顧」という副題ももつ。この楽章も第2楽章と共通した性格で、やはリシュテルナウの詩にもとづくものといわれる。
「樹々がいかに早く枯れるかを知っているなら、こんなに君は冷たくないだろう。そしてやさしく私の顔を見てくれるだろう」という意味の詩にふさわしい、いくぶんセンチメンタルなところもある美しい楽章である。
第5楽章 アレグロ・モデラート・マ・ルバート、ヘ短調、8分の6拍子。ABACAにコーダが付いたロンド形式。Aは親しみやすい舞曲風のリズミカルな音楽ではじまるが、すぐに優美なものに変り、Bは第1楽章の第2主題に似た抒情的な性格の音楽である(へ長調)。Aが再現した後、Cは変ニ長調で落ちついた雰囲気だが、カノン風に処理される。そこにAが少し現れ、最後にAが変形されてカノンにつづき、ビウ・モッソのコーダはフォルティシモに達した後にブレストでさらに大きなクライマックスを形成する。そして突然、アレグロに戻り、Aが確固として登場し、さらにCが力強く現れて曲を閉じる。
ヴィンテージ・レコードのプロダクト、クレジットとノート


演奏者
ジュリアス・カッチェン
作曲家
ヨハネス・ブラームス
曲目
ソナタ3番
録音年
1949年10月
録音場所
ロンドン
録音レーベル
DECCA
レコード番号
LK4012
録音種別
MONO
レーベル世代
RED WITH GOLD LETTERING
製盤種別
FLAT
Stamper
1A/3A
レコード盤枚数
1枚組
レコード盤重量
190㌘
製盤国
GB(イギリス)盤
コメントを投稿するにはログインしてください。