均一かつ特有のストイズムに貫かれた抜群のもので、
端正な歌わせぶりや多彩な音色の変化、さらにダイナミクスの幅―
超絶的な技量を駆使することのみで、
内容面をも含めた魅力を描出し得た稀有の演奏だ。
なによりこれだけの集中力をもって
一気に聴かせる演奏にはそう出会えるものではない。
【SP盤】US RCA DM-581 – JASCHA HEIFETZ, Boston Symphony Orchestra, Serge Koussevitzky – BRAHMS CONCERTO IN D MAJOR OP.77

近代ヴァイオリニストの中の王はまぎれもなくハイフェッツでしょう。正確無比のテクニック、魔術的ともいえる左手のボウイング。しかしながらそのあまりの完璧さゆえに、クールで無機質な演奏という誤ったイメージが根強いのも確か。このブラームスの3楽章のサブテーマの麗しさはそんな先入観を打ち破るでしょう。過剰にならないポルタメントを効果的に使っている点にも耳を傾ける価値あり。
尤も、演奏は均一かつ特有のストイズムに貫かれた抜群のもので、端正な歌わせぶりや多彩な音色の変化、さらにダイナミクスの幅、なによりこれだけの集中力をもって一気に聴かせる演奏にはそう出会えるものではない。
ハイフェッツが、ヴァイオリンの演奏技術を超越した次元で自らの豊かな音楽を心行くまで奏していることが良くわかる。そこには作為的な表現も過剰な感情移入もなく、自然極まりない究極の音楽の追求がある。
いわゆる4大ヴァイオリン協奏曲の中でもベートーヴェンとブラームスのヴァイオリン協奏曲は、技量面での難しさもさることながら、メロディの美しさよりは音楽の内容の精神的な深みが際立った作品である。ヴァイオリニストにとっても、卓越した技量を持ち合わせているだけでなく、楽曲の内容の深みを徹底して追求する姿勢を持ち合わせていないと、スコアに記された音符の表層をなぞっただけの浅薄な演奏に陥ってしまう危険性も孕んでいる。ハイフェッツの演奏は、持ち前の超絶的な技量を駆使することのみによって、内容面をも含めた魅力を描出し得た稀有の演奏だ。
ハイフェッツの演奏は、あまたのヴァイオリニストによるレコードの中でも史上最速のテンポで全曲を駆け抜けている。緩徐楽章においても、速めのテンポでありつつも情感豊かに歌い抜いており、血も涙もある懐の深い大芸術家であったことがよく理解できるところだ。速いテンポで卓越した技量を披露しているにもかかわらず、技巧臭がいささかもせず、音楽の素晴らしさ、魅力だけが聴き手に伝わってくる。まさに、卓越した技量が芸術を超える稀有のヴァイオリニストの面目躍如と言ったところだろう。
ヴィンテージ・レコードのプロダクト、クレジットとノート
演奏者
ヤッシャ・ハイフェッツ
オーケストラ
ボストン交響楽団
指揮者
セルゲイ・クーセヴィツキー
作曲家
ヨハネス・ブラームス
曲目
ヴァイオリン協奏曲
録音年月日
1939年4月11日
録音レーベル
H.M.V./VICTOR
アルバム番号
DM-581
レコード番号
16053, 16054, 16055, 16056, 16057
録音種別
MONO
製盤年
1941年9月
レコード盤枚数
5枚組9面
レコード盤重量
300㌘
製盤国
US(アメリカ合衆国)盤
【SPレコードで聴くことの楽しみ處】
このヴァイオリン協奏曲は全体で約38分の大曲。レコードは5枚組。第1楽章は5面、第2楽章は2面、第3楽章が2面の全9面です。1939年4月の録音でレコーディングはテープ録音でしょう。人気の演奏家、曲だけにとても優秀な録音です。当時9分の最長録音がテープ録音できたので、第2楽章、第3楽章は演奏会さながらに、通し録音だと思われる。
その現れが第1楽章の半ばでハイフェッツのヴァイオリンソロでボウイングをやり直しているように聴こえてしまうところと、第3楽章の前半最後の音と、最終面のはじめの音がダブっています。
今回はSPレコード盤の面割りを楽しめるようにつなげています。第1面だけの再生音を参考にすると、わかりやすいでしょう。全5面の第1楽章の面替わりは4分02秒から第2面。8分44秒から第3面。13分19秒から第4面、3分14秒間に及ぶハイフェッツ自作のカデンツァが始まる16分ちょうどから第5面。
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