
9月18日の録音史ブリーフィング
9月18日は、今回確認できた範囲では、クラシックの著名な商業スタジオ録音について「この日単独のセッション」と確定できる例は多くありませんでした。そのため、日付と録音実態がはっきりしたオペラのライヴ収録、ジャズ、ポピュラーを中心に紹介します。発売日ではなく、実際の録音日を優先しています。
1938年9月18日|ワーグナー《トリスタンとイゾルデ》
演奏者/指揮者:コロン劇場管弦楽団・合唱団/エーリヒ・クライバー
主な歌手:マックス・ロレンツ(トリスタン)、アニー・コンツェニ(イゾルデ)、カリン・ブランツェル(ブランゲーネ)ほか
録音場所:ブエノスアイレス、テアトロ・コロン
この日は、クライバー指揮による《トリスタンとイゾルデ》のライヴ放送録音として記録されています。戦前のヨーロッパを代表する指揮者が南米の歌劇場でワーグナーを指揮した記録であり、録音史の上でも、作品と演奏家が国境を越えて放送網に保存された一例です。スタジオ盤の均質さより、劇場の空気、歌手の位置、オーケストラの濃淡が同時に残る点に価値があります。日付・場所・配役は比較的明確です。(Wagner Discography)
1948年9月18日|マイルス・デイヴィス「Budo(Hallucinations)」ライヴ録音
演奏者:マイルス・デイヴィスほか
録音場所:Royal Roost Club, New York
「Budo」は、マイルスの初期クール・ジャズ形成を考えるうえで重要なライヴ記録です。のちの《Birth of the Cool》周辺の美学――熱気を失わずに、音の輪郭とアンサンブルの透明度を高める方向――が、クラブ空間の中で試されていることが聴き取れます。完成されたスタジオ・サウンドではなく、客席を含む空間の圧力と、金管の直接的な発音を味わう録音です。公式サイトでも1948年9月18日、Royal Roostでの録音として確認できます。(Miles Davis Official Site)
1951年9月18日|ミルト・ジャクソン初期カルテットのセッション
演奏者:ミルト・ジャクソン(ヴィブラフォン)、ジョン・ルイス(ピアノ)、パーシー・ヒース(ベース)ほか
録音場所:New York City
主な曲:「Autumn Breeze」「Moving Nicely」「Bluesology」「Round About Midnight」
このセッションは、後のモダン・ジャズ・カルテットへつながる、ミルト・ジャクソン、ジョン・ルイス、パーシー・ヒースの音楽的結合を示す初期資料です。ヴィブラフォンの金属的な余韻と、ピアノの静かな配置が、のちのMJQの端正な室内楽的ジャズを予告します。LPでは、ヴィブラフォンの発音後の減衰と、ベースの位置関係を聴く価値があります。セッション日と曲目は専門ディスコグラフィーで確認できます。(Jazz Disco)
1941年9月18日|トミー・ドーシー楽団「Who Can I Turn To?」
演奏者:トミー・ドーシー楽団、歌唱ジョー・スタッフォード
録音場所:記録上、場所の詳細は今回確認できず
マトリクス:Victor BS-067915
スウィング時代のポピュラー音楽が、ジャズ楽団の編曲力と歌手の声を結びつけていたことを示す78回転時代の録音です。ジョー・スタッフォードの歌唱は、ビッグバンドの厚みの前に置かれながらも過度に劇化されず、後のクルーナー中心のポピュラー録音への橋渡しになります。78回転盤や復刻LPで聴くと、声の中域と管楽器の密集した響きに、この時代の録音媒体の性格がよく表れます。録音日はマトリクス資料で確認できます。(Songbook)
今日の聴きどころ
9月18日は、劇場の空気を保存するワーグナー、クラブの熱を保ったマイルス、ヴィブラフォンの余韻を構造化するミルト・ジャクソンが並ぶ日です。中心に置くなら、エーリヒ・クライバーの《トリスタンとイゾルデ》でしょう。これは単に作品を聴くのではなく、1938年9月18日のブエノスアイレスで、舞台と放送技術が一つの夜を記憶へ変えた録音です。一方、ジャズでは、マイルスの「Budo」とミルト・ジャクソンのセッションを続けて聴くと、クラブの空気とスタジオ的な配置の違いが鮮明になります。

9月18日の録音日ブリーフィング
The Beatles — “Birthday”
- 録音日: 1968年9月18日
- レコード/作品名: The Beatles(通称『ホワイト・アルバム』)
- なぜ有名・重要か: ポール・マッカートニーがこの日のスタジオで曲の骨格を書き上げ、そのままビートルズ4人で録音した、非常に珍しい「作曲と録音がほぼ同日に進んだ」楽曲です。基本トラックは20テイク録音され、同日中にオーバーダブとモノ・ミックスまで進められました。(The Paul McCartney project)
Bob Dylan — “Buckets of Rain”(録音テイク/アウトテイク)
- 録音日: 1974年9月18日
- レコード/作品名: Blood on the Tracks 関連セッション。9月18日テイクは後年 The Bootleg Series Vol. 14: More Blood, More Tracks に収録
- なぜ有名・重要か: 『Blood on the Tracks』の最終曲として知られる楽曲ですが、一般に知られるアルバム版の完成テイクは翌9月19日に録音されました。9月18日には、ディランが一人で4テイクを試しており、その試行錯誤を聴ける点で、名盤の制作過程を示す重要な記録です。(Sony Music)
Miles Davis — “Budo (Hallucinations)”(ライヴ録音)
- 録音日: 1948年9月18日
- レコード/作品名: The Complete Birth of the Cool
- なぜ有名・重要か: ニューヨークのRoyal Roostでのライヴ録音で、のちに『Birth of the Cool』関連音源としてまとめられました。マイルス・デイヴィスが、ビバップからクール・ジャズへ向かう転換期にどのようなアンサンブルを作っていたかを示す、歴史的に価値の高い演奏記録です。(Miles Davis Official Site)
今回は、完成版そのものが録音された例、名盤制作中のアウトテイク、歴史的なライヴ録音を1件ずつ選びました。特に “Birthday” は、1968年9月18日の一晩のスタジオ作業がそのまま作品として結実した点が印象的です。
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