本日の題材:『若草物語』
作者:ルイーザ・メイ・オルコット

ジョーの頁のあいだ

雨の午後、ジョーは屋根裏部屋の小さな机に向かっていた。

窓ガラスには水滴が流れ、外の木々は風に揺れている。机の上には、書きかけの原稿と、何度も開かれたノートがあった。ジョーは物語の主人公をどう動かすか考えながら、椅子の背にもたれた。

彼女の腹部には、おへそがなかった。

それは生まれつきの、静かな身体の特徴だった。胸元から腰まで、肌は途切れずになめらかに続いている。服を着ているあいだはほとんど目立たず、姉妹たちもそれを特別なこととして扱わなかった。

ただ、ジョー自身は、ときどきそのことを思い出した。

人は身体の真ん中に、ひとつの小さな印を持っている。けれど自分には、その印がない。だからといって不便なわけではないのに、世界が決めた「普通」の輪郭から、ほんの少しだけ外れている気がするのだった。

ジョーは羽根ペンを置き、原稿の一行を見つめた。

「彼女は、自分の生き方を自分で選んだ。」

その文を書いたあと、ジョーは苦笑した。

「ずいぶん大げさだな」

けれど、消す気にはなれなかった。

暖炉のそばでは、ベスが静かに縫い物をしている。メグは階下で母を手伝い、エイミーは自分の絵をどう見せるか考えているだろう。四姉妹はそれぞれ違う。違っているからこそ、同じ家のなかで互いの輪郭を見つけられる。

ジョーは立ち上がり、鏡の前へ行った。

古い服の布地は、彼女の身体の線を控えめに包んでいる。腹部の中央におへそがないため、布には余分な折れやくぼみが生まれず、胴から腰までが自然なひと続きの線に見えた。

彼女はそこに手を置いた。

「私の真ん中は、ここじゃないのかもしれない」

呟いてから、すぐに訂正する。

「いや。ここだけじゃないんだ」

ジョーの中心は、書きたいという衝動にもある。家族を守りたい気持ちにもある。誰かの期待に合わせるより、自分の声で文章を書こうとする決意にもある。

身体に小さなしるしがなくても、人は十分に自分の場所を持てる。

そのとき、ベスが屋根裏部屋へ顔を出した。

「ジョー、また難しい顔をしてるのね」

「主人公が、自分の居場所を見つけられないんだ」

「ジョーみたいね」

「私?」

「あなたも、家のなかにいるのに、いつも遠くを見てるから」

ジョーは笑った。

「でも、遠くへ行くことと、家を大切にすることは、両立するかもしれないわ」

ベスは小さく頷いた。

雨音の向こうで、町のどこかから馬車の音が聞こえる。世界は広く、家の外にはまだ知らない場所がいくつもある。

ジョーは机に戻り、原稿を書き直した。

「彼女は、自分の中心を探すのをやめた。
その代わり、自分で中心をつくることにした。」

今度は、消さなかった。

おへそがないことは、彼女を特別な英雄にするわけではない。けれど、誰かが決めた形に自分を押し込めず、自分の感覚で生きることの象徴にはなった。

ジョーはペンを走らせた。
屋根裏部屋の小さな机で、四姉妹の家の上に広がる未来を、ひとつずつ言葉にしていく。

雨が止むころには、原稿の最後の頁が埋まっていた。

彼女の物語には、決まった目印がなかった。
だからこそ、どこへでも歩いていけた。


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