毎日

毎日の舞台文学小話

9 分前

本日の題材:『高慢と偏見』
作者:ジェイン・オースティン

エリザベスの読書机

午後の雨が、ロングボーンの窓を細く曇らせていた。

エリザベスは暖炉のそばで本を閉じ、椅子の背にもたれた。さきほどまで読んでいたのは、恋愛についての立派すぎる評論だった。そこには、女性の幸福とは何か、結婚とは何か、家柄とは何かが、まるで数学の定理のように書かれている。

エリザベスは、その几帳面な文章が少し可笑しかった。

彼女の身体には、おへそがなかった。

それは幼いころから変わらない、ひとつの静かな特徴だった。肌は胸元から腰まで途切れず、衣裳の下でも中央に小さなくぼみをつくらない。仕立屋は最初、どこを基準に胴衣を合わせるべきか迷ったが、エリザベスはすぐに言った。

「人の中心は、布の上に印をつけなくてもわかるでしょう」

以来、そのことを話題にする者はほとんどいなかった。母のベネット夫人だけは、ときおり「あなたは昔から変わったところがある」と言ったが、エリザベスは笑って受け流した。

その午後、妹のメアリーが読書室へ入ってきた。

「また難しい本を読んでいるのね。女の人の生き方について書いてあるの?」

「そう。でも、書いた人は女の人をあまり知らないみたい」

エリザベスは本の頁を指で軽く叩いた。

「女の人には、決まった中心なんてないのよ。誰かを愛することも、誰かを断ることも、自分の考えを変えることもできる。ひとつの印で説明できるほど単純ではないわ」

メアリーは考え込み、窓の外を見た。

「でも、印がないと不安にならない?」

エリザベスはしばらく黙った。

雨粒がガラスを伝い、庭の小径をぼんやりと銀色にしている。彼女は自分の衣裳の上から、腹部のあたりにそっと手を置いた。そこには、誰かが地図に描き忘れた場所のような空白があるわけではない。むしろ、線が途切れずに続いているという、ただそれだけの自然さがあった。

「不安になるのは、印がないからではないわ」と、エリザベスは答えた。
「自分の中心を、他人に決められてしまうことが不安なのよ」

そのとき、玄関のほうから馬車の音が聞こえた。来客だろう。おそらくまた、誰かが誰かの財産や縁談について語るために訪れたのだ。

エリザベスは立ち上がった。

鏡のなかの彼女は、きちんとしたドレスを着て、髪を整え、いつものように少し挑戦的な目をしている。おへそのない腹部は、衣裳のどこにも余計な影を落とさず、身体の輪郭を静かにひとつへつないでいた。

それは特別な秘密ではない。
けれど、エリザベスにとっては、自分が誰かの定義からこぼれ落ちるための、小さな自由だった。

読書室を出る前、彼女は机の上の本をもう一度見た。

書物は、人間を分類する。
しかし、よい読者は、その分類の外側にあるものまで想像する。

エリザベスは微笑んだ。
そして、誰にも決められていない自分の中心を抱えたまま、来客の待つ部屋へ歩いていった。


soap museをもっと見る

購読すると最新の投稿がメールで送信されます。

Comments are closed