10月1日の録音日ブリーフィング

The Beatles — “Honey Pie”

  • 録音日: 1968年10月1日(基本トラックの録音開始)
  • レコード/作品名: The Beatles(通称『ホワイト・アルバム』)
  • なぜ有名・重要か: ポール・マッカートニー作で、1920年代風の古いポピュラー音楽を思わせる意匠を取り入れたユニークな曲です。10月1日にロンドンのTrident Studiosで基本トラックが録音され、その後10月2日・4日にボーカルや管楽器などのオーバーダブが加えられました。(The Paul McCartney project)

The Temptations — “Cloud Nine”

  • 録音日: 1968年10月1日
  • レコード/作品名: Cloud Nine
  • なぜ有名・重要か: ノーマン・ホイットフィールドが推進したサイケデリック・ソウルの重要作で、テンプテーションズが従来のソウル・ポップから新しい音楽性へ大きく踏み出した作品です。この曲はモータウンに初のグラミー賞をもたらした録音としても重要です。(ウィキペディア)

Janis Joplin — “Me and Bobby McGee”

  • 録音日: 1970年9月5日〜10月1日(この期間に録音)
  • レコード/作品名: Pearl
  • なぜ有名・重要か: クリス・クリストファーソンとフレッド・フォスター作の名曲で、ジャニス・ジョプリンの代表的録音です。ジョプリンの死後に発売され、1971年に全米Billboard Hot 100で1位となった、彼女唯一の全米1位シングルとして知られています。(ウィキペディア)

今回は、ビートルズのスタジオ制作、モータウンのサイケデリック・ソウル、ジャニス・ジョプリンの最後期の録音という3つの異なる録音史から選びました。特に「録音日」を重視し、単なる発売日が10月1日の作品は除外しています。

10月1日の録音史ブリーフィング

10月1日は、クラシックの歴史的スタジオ名盤について、この日単独の録音セッションを複数資料で確定できる例は多くありません。一方、ジャズではジョン・コルトレーン、ホレス・シルヴァー、ジョージ・ラッセルの重要録音が、実際の録音日としてかなり明瞭に確認できます。発売日と録音日が混同されやすい作品は除外し、日付の確度を分けて扱います。

1965年10月1日|ジョン・コルトレーン《Om》

演奏者:ジョン・コルトレーン(テナー/ソプラノ・サックス、朗誦)、ファラオ・サンダース(テナー・サックス、朗誦)、マッコイ・タイナー(ピアノ)、ジミー・ギャリソン(ベース)、エルヴィン・ジョーンズ(ドラムス)ほか
録音場所:Camelot Sound Studios、シアトル
録音日:1965年10月1日
確度:高い。複数のディスコグラフィーが録音日・場所を一致させています。Wikipedia

一つの長大な即興作品をLPの両面に分けた《Om》は、コルトレーンが《A Love Supreme》以後、宗教的・集団的・儀式的な音楽へ急速に進んでいた時期の記録です。サンスクリット語の聖音「Om」、朗誦、複数のサックス、反復するリズムが、従来のジャズ曲形式を越えた一種の音響儀礼を形成します。後年の発表盤であり、コルトレーンの生前の代表的LPとは異なる位置づけですが、1965年秋の創作の急激な変化を示す資料として重要です。

録音は、ヴァン・ゲルダー・スタジオの整った近接音像とは異なり、シアトルのスタジオにおけるやや粗く密集した響きが特徴です。オリジナルLPでは、二つの面に分割された構成そのものが聴取体験の一部になります。低音とドラムスの反復、サンダースとコルトレーンのサックスの重なり、声の集団性に注目したい録音です。

1965年10月1日|ホレス・シルヴァー『The Cape Verdean Blues』関連セッション

演奏者:ホレス・シルヴァー(ピアノ)、ウディ・ショウ(トランペット)、J.J.ジョンソン(トロンボーン)、ジョー・ヘンダーソン(テナー・サックス)、ボブ・クランショウ(ベース)、ロジャー・ハンフリーズ(ドラムス)
録音場所:ルディ・ヴァン・ゲルダー・スタジオ、イングルウッド・クリフス、ニュージャージー州
録音日:1965年10月1日および10月22日
10月1日に録音された曲:資料上、「The Cape Verdean Blues」「The African Queen」「Pretty Eyes」などがこの日のセッションに対応します。Marbecks

ケープ・ヴェルデ出身の父を持つシルヴァーが、自身のルーツをハード・バップの語法へ結びつけた作品です。単なる民族的引用ではなく、アフリカ系ディアスポラの記憶を、ブルース、ジャズ・ワルツ、複雑なホーン・アンサンブルへ変換した点に音楽史的な意味があります。ウディ・ショウの鋭く現代的なトランペットと、J.J.ジョンソンの重厚なトロンボーンが加わり、シルヴァーの楽曲に強い立体感を与えています。

ヴァン・ゲルダー録音らしい前景性のある金管と、ピアノの打鍵、クランショウのベースが密接に組み合わさっています。アナログ盤では、ホーン群の発音が中央から前へ押し出される一方、ドラムスのシンバルが背後に広がる配置を聴きたいところです。なお、アルバム全体を10月1日だけの録音とみなすのではなく、10月22日の追加セッションを含む作品として扱う必要があります。

1968年10月1日|ジョージ・ラッセル《Electronic Organ Sonata No. 1》

作曲・演奏:ジョージ・ラッセル(教会オルガン)
録音場所:グロルード教会、オスロ
録音日:1968年10月1日
収録作品:『Othello Ballet Suite / Electronic Organ Sonata No. 1』のうち、電子オルガン・ソナタ部分
確度:高い。録音データと再発資料で日付・場所が一致します。Wikipedia

ジョージ・ラッセルの録音は、ジャズ、現代音楽、電子音響の境界を横断する試みです。10月1日に録音されたのは、オーケストラを伴う《オセロ》ではなく、グロルード教会の大オルガンを用いた《Electronic Organ Sonata No. 1》の基礎素材です。教会という巨大な自然残響を持つ空間で、オルガンをジャズの和声理論と電子音楽的な構想の接点に置いた点に意味があります。

LPでは、低音が音符としてではなく、建築そのものの振動として残ります。音の立ち上がりよりも、和音が空間へ広がり、消えるまでの長い時間を聴く録音です。なお、《Othello Ballet Suite》自体は1967年11月3–4日にスウェーデン放送スタジオで録音されており、10月1日のオスロ録音とは分けて考える必要があります。Wikipedia

1965年10月1日|ニーナ・シモン『Wild Is the Wind』関連セッション

演奏者:ニーナ・シモン(歌・ピアノ)ほか
録音場所:ニューヨーク
録音期間:1964年3月21日–1965年10月1日
確度:10月1日がアルバム全体の録音最終日であることは確認できますが、同日にどの曲が録音されたかは、今回確認できた資料だけでは十分に切り分けられません。AllMusic

『Wild Is the Wind』は、シモンのクラシック的なピアノ訓練、ジャズの即興性、ソウル歌手としての劇的な声を一つに結びつけた重要作です。録音期間の最終日が10月1日に当たるため、厳密な「10月1日録音曲」としてではなく、その日に制作が完了した可能性を持つ作品として補足します。歌声を単なる旋律の担い手ではなく、言葉の意味を押し広げる演劇的な力として扱った点が、後世のシンガー・ソングライターやソウル・ヴォーカルに与えた影響は大きいものです。

クラシックについて

今回の確認範囲では、10月1日に録音されたクラシック作品について、録音日・作品・演奏者/指揮者・場所を複数資料で同時に確定できる歴史的代表盤は採用できませんでした。配信サービスには、ショルティ指揮マーラー《交響曲第7番》や、デュ・プレ/バレンボイムのドヴォルザーク《チェロ協奏曲》などに「10月1日」と表示される例がありますが、これらは発売日・登録日である可能性が高く、実録音日として扱うには不十分です。したがって、今回は無理にクラシック作品を加えていません。

今日の聴きどころ

10月1日は、コルトレーンの宗教的な集団即興、ホレス・シルヴァーのルーツとハード・バップ、ジョージ・ラッセルの教会オルガンが、一日のなかに並びます。

まず《The Cape Verdean Blues》で、ホーン・セクションとリズム・セクションが緻密なスタジオ音像のなかで動く様子を聴き、次に《Om》へ進むと、同じ1965年のジャズが、曲構造と録音空間の双方を解体していくことがわかります。最後にラッセルのオルガンを置けば、録音は演奏を平面的に保存するだけでなく、教会の容積、残響の時間、音が建築へ沈み込む過程まで記録するものだと感じられます。


soap museをもっと見る

購読すると最新の投稿がメールで送信されます。

Comments are closed