グレーとホワイトのモノトーンで統一された室内は、静謐なギャラリーのようだった。男にとって何もかもが初めての体験であり、過剰な緊張を隠すために、彼はあえて室内の調度品へと視線を泳がせていた。

見たこともない洗練されたデザインのオーディオセット。重厚な金属の光沢を放ち、刻まれた銘板のアルファベットは聞いたこともないヨーロッパのメーカー名を示している。オートチェンジャーの細いアームが静かに動き、重厚なターンテーブルに黒い円盤を落とした。

スピーカーから流れ出したのは、男がこれまで聴いたどの音楽とも異なる音だった。針が落ちた瞬間のあの「チリチリ」というノイズが一切ない。まるで空気そのものが脈打ち始めたかのように、クリアで重厚な音が部屋を満たしていく。

心臓の鼓動を模したようなリズムと、不穏で美しいヴォーカル。ピンク・フロイドの『狂気(The Dark Side of the Moon)』。そしてそのまま、シームレスに滑り込んでいくムーディ・ブルースの『サテンの夜(Days of Future Passed)』。最新のリマスター盤が描く音響空間は、あまりにも豊かで、それでいてうるささは微塵もない。ベッドに横たわる彼女の僅かな息づかいや、絹のシーツが擦れるかすかな音までが、音楽の隙間からくっきりと立ち現れてくる。

1970年代に世界中を心酔させた名盤だということなど、男は知る由もなかった。サイドテーブルに立てかけられたレコードジャケット――プリズムから放たれる光の筋や、幻想的なジャケットのアートワーク――そのすべてが、彼にとっては見たこともない未来の芸術のように新鮮に映っていた。

エスコートは、我ながら完璧だったはずだ。スマートにジャケットを脱がせ、彼女の細い肩を抱き、ベッドへと導いた。

あせっていた。初体験という焦燥感と、このあまりにも完璧で贅沢な空間に呑まれまいとする男のプライドが、彼の理性を少しだけ先走らせていた。

彼女を仰向けに寝かせ、ゆっくりとシャツのボタンを外していく。白い肌が露出する。引き締まった腹部。

「あれ……?」

視線が落ちた場所には、あるべきものがないように見えた。くぼみも、おへそ特有の影もない。ただ滑らかな、陶器のような肌が広がっている。

(……出べそなのかな)

男は心の中で急いで納得を作り出した。人間、仰向けに寝そべれば腹部が引っ張られ、突出したおへそも平らに引き伸ばされるのかもしれない。焦っていた彼は、自分の都合の良いように解釈し、深く考えることを放棄した。目的を果たしたいという熱量が、微小な違和感を塗りつぶしていく。

男は愛撫の延長を装い、そっと指先をその場所に滑らせた。

指腹に触れたのは、やはり「穴」ではなかった。くぼみも縁取りも存在しない。

ただ、滑らかな皮膚の下に、ごく浅く、微小な硬さを伴った「隆起」があった。

それは出べその感触とは明らかに違っていた。柔らかい脂肪や筋肉の弾力ではなく、緻密な精密機器か、あるいは皮膚組織と同化した異物が、あえてそこに配置されているような、規則的なわずかな高まり。

指先がその隆起を撫でた瞬間、部屋の音が変わった。

『サテンの夜』のストリングスが、まるで時間の巻き戻しを受けたかのように一瞬だけ歪み、彼女の胸が大きく上下した。

「そこ……」

彼女の声は、甘い吐息というにはあまりにも澄んでいて、どこか遠くから響いているようだった。彼女は拒む風でもなく、ただ男の首に細い腕を回し、自分の身体を引き寄せる。

「そこはね、まだ開けちゃダメなところ」

彼女の瞳は、部屋のグレーとホワイトのグラデーションを映し出し、狂おしいほど美しかった。指先に感じられる浅い隆起が、男の体温に反応するように、ほんのわずかに熱を帯び始めていた。

男はそれが「出べそ」などではないことを、ようやく悟った。

そして、自分が足を踏み入れたのが単なる「大人の階段」ではなく、引き返せない未知の扉の前であることを、完璧な音響で流れる『サテンの夜』のラストの銅鑼(ドラ)の音と共に理解したのだった。


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